万が一に備えて、民間の死亡保険に入っている方は少なくありません。
生命保険に加入する際、働き手のお父さんが亡くなったら将来いくら必要になるか?という金額を試算された方も多いと思います。
どの程度詳しく見積もるかは保険会社によって異なりますが、数千万単位のお金に関わることですから、その内容(試算結果の内訳)はざっくりでも把握しておくと良いですね。
遺族年金の考え方
私たちは、基本的に全員が公的年金制度に加入しているので、家族の誰か(働き手)が亡くなると、公的制度から遺族年金というお金を受け取ることができます。
遺族年金は、亡くなった時点の本人・遺族の収入や年齢によって、もらえる額が大きく異なります。
ケースによって、総額でゼロから数千万円ほどの違いが生まれる年金です。
本来もらえるのに、もらえない前提で民間保険に加入していると、保険が重複してもったいないことになってしまう可能性があります。
一方で、なんとなくで加入していると、万が一の備えが足りないケースも考えられます。
最近は共働きが増え、夫婦二人で家計を支えている家庭も多いですね。ご主人の保険は手厚く加入しているかもしれませんが、もう一人の働き手である奥様の保障はどうでしょう?
家計の担い手であれば、ご主人と同じように考えておく必要がありますよね。
まずは公的な制度で、自分の場合はいつまで、どの程度保障されるのかを知っておきましょう。
その上で、一定期間は民間の保険で補う必要があるかどうか、お父さんの保障がかぶっていないか等を確認すると、無駄のない保険になります。
遺族年金の種類は2つ
公的な遺族年金には、遺族基礎年金と遺族厚生年金の2つがあります。
遺族基礎年金は、国民年金に加入している人(自営業や学生など)、または加入していた60歳~65歳の人が亡くなった時に支給されます。
遺族厚生年金は、厚生年金に加入している人(会社員や公務員)、会社員OB、障害厚生年金を受けている人等が亡くなった時に支給されます。
遺族年金をもらうための要件
遺族基礎年金、遺族厚生年金のどちらにも共通の要件は以下のとおりです。
- 亡くなった日の前々月までに、年金加入期間の3分の2以上、保険料を納めていること。(または、前々月までの1年間に未納がないこと)
- 遺族の年収が850万円未満で、亡くなった人と同一生計であること。(別居でも可)
- 年金制度上の「子」に該当するのは、18歳になった年の年度末まで、障害1級・2級の場合は20歳未満になります。
例えば、お父さんが亡くなった時点で19歳と16歳の子供がいる場合、遺族年金の計算上、子は1人(16歳)のみとカウントします。 - 内縁の妻や夫は対象になりますが、子は亡くなった人の実子か養子であること。
保険料を納めていない期間が多くあると、遺族年金を受けられない場合がありますので、必ず確認しておきましょう。
遺族基礎年金をもらえる人
遺族基礎年金は、子どもがいることが前提になります。
【遺族年金を受け取る人】
「子がある配偶者」または「子」
【年金額】816,000円+子の加算額(令和6年4月分~)
- 第1子・第2子は各234,800円、第3子以降は各78,300が加算されます。
- 遺族基礎年金の金額は、亡くなった人の収入や年金加入期間に関わらず一律で、その年の老齢基礎年金の満額と同額です。
遺族厚生年金をもらえる人
遺族厚生年金は、原則会社員であることが前提になります。(亡くなった時点で会社を辞めていても、諸条件を満たせば受給できる場合があります)
【遺族年金を受け取る人】
優先順位が高い順に、①妻 → ②子・孫 → ③55歳以上の夫・父母・祖父母となり、この中で一番順位の高い人にのみ支給されます。
【年金額】
亡くなった人がその時点でもらえる厚生年金額の4分の3
- 厚生年金額は、年収と年金加入期間に応じて変わります。
- 亡くなった時点で、厚生年金の加入期間が25年(300月)に満たない場合でも、300月加入したものとみなして計算されます。
遺族年金の受給パターン
遺族年金は、子どもがいるか・いないか、遺族が夫か・妻かで大きな違いが出てきます。
以下、子どもがいるケースといないケースに分けた6つのパターンを見ていきましょう。
前提:30代の夫婦、夫・妻とも年収400万円(年金額は概算値)
子どもが1人いる夫婦の場合
① 会社員の夫が死亡(遺族は妻と子)
遺族基礎:100万円(子が18歳まで)
遺族厚生:40万円(妻に終身で)
中高齢寡婦加算*:60万円(遺族基礎年金の終了後、妻が65歳になるまで)
*中高齢寡婦加算は、子がいない(または、子が18歳をすぎた)妻だけに支給される厚生年金の加算です。
② 会社員の妻が死亡(遺族は夫と子)
遺族基礎:100万円(子が18歳まで)
遺族厚生:40万円(子が18歳まで)
③ 自営業の夫または妻が死亡(遺族は配偶者と子)
遺族基礎:100万円(子が18歳まで)
遺族厚生:なし
子どもがいない夫婦の場合
④ 会社員の夫が死亡(遺族は妻のみ)
遺族基礎年金:なし
遺族厚生年金:40万円(妻に終身で)
⑤ 会社員の妻が死亡(遺族は夫のみ)
遺族基礎年金:なし
遺族厚生年金:なし
⑥ 自営業の夫または妻が死亡(遺族は配偶者のみ)
遺族基礎年金:なし
遺族厚生年金:なし
注意したいポイント
ケースごとに、ここだけは押さえておきたい点をまとめました。
夫が亡くなった場合
夫が亡くなった時点で妻が30歳未満の場合、遺族厚生年金は5年間だけの支給になります。
それ以降は、経済的に自立しなければならないということですね。
年齢・性別に関わらず、再婚した時は支給停止になります。
夫名義で住宅ローンを借りている場合、団信に入っていれば、残りのローン返済が免除されます。
この場合、民間の保険も合わせて考えると、夫の生命保険が多すぎる可能性もあります。
保障が重複している場合は、民間保険料ではなく、貯蓄や資産形成に回せるかもしれませんね。
妻が亡くなった場合
会社員の妻が亡くなった場合、遺族厚生年金を受けられる夫は55歳以上という年齢制限があります。
子どもがいる場合、18歳までは遺族基礎・厚生年金が支給されますが、それ以降は保障がなくなってしまいます。
若くして奥様が亡くなると、子どもを育てるためのサポート費用等があらたに必要になるかもしれません。
不足する分を貯蓄で補えるかどうか、状況に応じて(住宅ローンが終わるまで、子どもが独立するまで等)期間を限定した民間保険を利用することも検討しましょう。
その場合は、貯蓄とセットの保険ではなく、掛け捨ての定期保険や収入保障保険がおすすめです。
自営業の場合
自営業にとって、公的な保障はあまり手厚いものではありません。
子どもがいても18歳まで、子どもがいない場合は夫婦のどちらが亡くなっても遺族年金は支給されません。
できるだけ資産形成を進めるために無駄のない家計を維持することと、万が一の時にはしっかりまとまった保障が受けられるよう、期間を絞った定期保険や収入保障保険などで備えておきましょう。