日本で不妊の検査・治療を受けたことのある夫婦は約6組に1組。
特別めずらしい治療ではなくなりつつありますが、仕事への影響やパートナーとの関係、精神的な負担は軽くはありません。
これまでの不妊治療は、公的な健康保険の適用にならないものが多く、お金の面でも大きな負担がかかる治療でした。
令和4年4月からは、体外受精などを含む基本治療が保険適用となり、お金の面ではだいぶ治療が受けやすくなっています。
不妊治療が保険適用に
不妊の原因は、女性だけにあるわけではありません。男性に原因があったり、検査をしても原因がわからないこともあります。
以前は、原因や治療内容によって、公的な保険でカバーされるものと、自由診療(保険適用外の治療)に分けられていました。
かつて、夫婦のどちらにも異常がなく不妊の原因がわからない場合や、治療を受けても妊娠しない場合は、健康保険ではカバーされない自由診療となり、かかる費用は10割(全額自己負担)でしたが、令和4年度からはとんどの不妊治療が3割負担で受けられるようになりました。
(厚生労働省HPより抜粋)
生殖補助医療のうち、上記に加えて実施されることのあるオプション治療については、保険適用されるもの、先進医療として保険診療と併用できるものがあります。
参考:厚生労働省 不妊治療における先進医療の状況
年齢・回数要件について
保険診療で体外受精、顕微授精を受ける場合、年齢などの制限が設けられています。
年齢制限
治療開始時において、女性の年齢が43歳未満の方が保険診療の対象になります。男性の年齢制限はありません。
回数制限
始めての治療開始時点の女性の年齢 | 回数の上限 |
---|---|
40歳未満 | 1子ごとに通算6回まで |
40歳以上43歳未満 | 1子ごとに通算3回まで |
保険診療で行った胚移植の回数のみをカウントしますので、過去の治療実績や助成金の支給回数は加味されません。
治療費が高額になった場合
とはいえ、長期にわたって定期的な通院が必要だったり、治療費が高額になる可能性もあるでしょう。
その場合、申請(申告)することで、医療費を一定額以内に抑えられたり、税金の負担が軽くなることがあります。
- 1ヶ月あたりの医療費が高額になった場合 → 高額療養費制度
- 医療費が年間10万円以上かかった場合 → 医療費控除
該当するものがあれば、提出期限を確認して、忘れずに申請しましょう。
高額療養費制度
保険適用になる治療を受け、その費用が一定額を超えた場合、加入している健康保険に「高額療養費」を請求することができます。
1ヶ月に窓口で支払った治療費が「ひと月の上限額」を超えた場合、その超えた分が申請によって戻ってくるものです。
ひと月の上限額は、年齢や収入によって異なります。(以下は69歳以下の場合)
区分 | 年収の目安 | 自己負担の上限 |
---|---|---|
ア | 約1160万円~ | 約 26万円 |
イ | 約770~1160万円 | 約 17万円 |
ウ | 約370~770万円 | 約 9万円 |
エ | ~約370万円 | 57,600円 |
オ | 住民税非課税世帯 | 35,400円 |
自己負担額について
たとえば、年収500万円の人で、1ヶ月の総医療費が100万円かかった場合でも、高額療養費制度により、自己負担額は約9万円に抑えられます。
1ヶ月の総医療費:100万円
窓口でひとまず支払う金額:30万円(保険適用で、医療費は3割負担となるため)
ひと月の自己負担上限額:約9万円
高額療養費を申請すると、一旦支払った30万円のうち、自己負担の上限額9万円を差し引いた、約21万円が後で払い戻されることになります。
入院などで医療費が高額になることが事前にわかっている場合には、あらかじめ「限度額適用認定証」を取得しておきましょう。
限度額適用認定証があると、窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめることができます。
この例の場合、「ひとまず30万円」を支払うことなく、はじめから9万円のみの支払いになります。
4回目以降はさらに引き下げ
高額療養費の払い戻しを受けた月数が、1年間(直近12ヶ月)で3月以上あった場合、4月目から自己負担額がさらに引き下げられます。(多数該当高額療養費といいます)
自己負担限度額が約9万円の場合、多数該当になると1ヶ月あたりの上限額は約44,000円に引き下げられます。
治療が長引いた場合でも、一定の安心感が保てそうですね。
医療費控除
1年間で一定額以上の医療費を支払った場合は、税金が還付される医療費控除を利用しましょう。
確定申告をすると、その年の所得税・翌年の住民税が軽減されます。
医療費控除の対象条件
1月~12月の1年間で、家族全員分の医療費が、以下のどちらかに該当する人が対象です。
- 支払った医療費の合計が10万円以上
- 所得200万円未満の人は、支払った医療費の合計が「総所得の5%」を超える額
医療費控除の対象となる金額は、「実際に支払った医療費の合計額-①-②」です。
- 高額療養費、民間の保険金、助成金等で支給された金額
- 10万円(所得が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額)
助成金や民間の医療保険から給付金を受け取った場合は、その分を差し引くところに注意しましょう。
医療費控除で還付される額
実際に還付される金額は、申請する人の収入によって異なります。(収入によって所得税の税率が異なるため)
医療費控除額がそのまま戻ってくるのではなく、医療費控除額に申請する人の所得税率をかけた金額が還付されます。
例えば、課税所得額が400万円(所得税率20%)で医療費控除額が50万円と計算された場合、50万円×20%で10万円が還付されることになります。
注:助成金や民間医療保険などで給付されるお金がたくさんある場合、その分は差し引いて計算しますので、医療費控除の還付額はさほど大きくならないかもしれません。
医療費控除のポイント
- 健康保険が適用されなくても、治療を目的とするものであれば医療費控除の対象になります。
- 不妊治療だけでなく、家族全員の医療費を1年間分、合算することができます。
- 前述の高額療養費や助成金、民間の医療保険から給付金等を受け取っている場合、その金額は「支払った医療費」から差し引いて計算します。
- 医療費控除を受ける場合は、医療費を支払った翌年の2月16日~3月15日の間に確定申告を行います。
対象になる具体的な費用
- 不妊治療や検査のために病院・薬局に支払った費用
- 通院する時の交通費(主に公共交通機関で、自家用車のガソリン代や駐車料金は除く)
- 入院時の部屋代や食事代(洗面用具やパジャマ等の身の回り品の購入、個人的な都合だけで個室に入院した場合の差額ベッド代は除く)
- 治療を目的とした鍼灸、マッサージ等の施術料金(疲れを癒したり体調を整える等、治療に直接関係のないものは除く)
通院しやすい病院選びを
不妊治療は、体と気持ちはもちろんのこと、毎日の生活にも大きな 影響を及ぼします。
治療は数ヶ月にわたることが多いので、不安や希望をしっかり受け止めてくれる先生に診てもらいましょう。
また、治療を始めると、頻繁に病院に通って治療・投薬を受けたり、夕方以降は仕事帰りの人でとても混み合い、時間がかかったりもしますので、通院しやすい病院を選ぶこともポイントです。
悔いのない選択ができるように、心の準備ができたら早めに受診されると良いですね。