公的制度・税金

会社員の老後にプラス:厚生年金から出る家族手当「加給年金」について

老後に受け取る公的年金。

家にたとえると、1階が全員対象の「基礎年金」、2階が会社員限定の「厚生年金」、3階が企業年金やiDeCoなどの上乗せです。

今回は、2階部分の厚生年金の制度で、要件を満たすとさらに上乗せされる「加給年金」についてまとめました。

年金を受け取る本人、その人が養っている家族、それぞれの要件を確認しましょう。

加給年金とは?

加給年金は、厚生年金を受け取る人に配偶者や子どもがいる場合に年金が加算されるしくみです。「家族手当」のようなイメージですね。

会社に長くお勤めをしてきた人(厚生年金の加入期間が原則20年以上ある人)が対象です。

会社員が加入する「厚生年金」の制度ですので、自営業で長く国民年金に加入している方は対象になりません

加給年金の受給要件

加給年金を受け取るには、本人と配偶者(または子ども)それぞれに条件があります。

本人の要件

厚生年金を受給する本人が、以下すべてを満たしていること。

  1. 65歳以上で、厚生年金と共済組合等の加入期間が合計で20年以上ある
  2. 生計を維持する配偶者または子どもがいる

「生計維持」とは、以下のどちらも満たす状態をいいます。

  • 同居していること。別居の場合は、仕送りをしている、健康保険の扶養親族である等が確認できること。
  • 配偶者や子どもの前年の収入が850万円未満(または所得が655万5千円未満)であること。

配偶者の要件

  • 65歳未満であること
  • 配偶者自身の年収が850万円未満(おおむね5年以内に、退職等で850万円未満に減ることが確実である場合はもらえる可能性もあり)
  • 配偶者自身が障害年金、または老齢厚生年金の受給権を得ていないこと
  • 同一生計の事実婚パートナーも対象

子どもの要件

  • 18歳に到達する年度の3月31日までの子
  • 1級、2級の障害状態にある20歳未満の子
  • 受給者本人に生計を維持されていること
  • 戸籍上の子どものみ対象

加給年金額はいくら?

配偶者がいる人は年間約40万円(特別加算を含む)、子どもがいる人は、1人目・2人目がそれぞれ約23万円、3人目以降は1人約8万円くらいになります。

下表は令和6年度の年金額です。(金額は毎年見直されます)

対象者加給年金額
配偶者234,800円
1人目・2人目の子各 234,800円
3人目以降の子各 78,300円

第1子が18歳の年度末を過ぎて「子」の枠から抜けた後は、2番目の子が1人目、3番目の子が2人目、と繰り上げてカウントします。

配偶者の特別加算

配偶者が対象の加給年金には、さらに「特別加算」という上乗せがあります。

加算額は受給者本人の生年月日に応じて異なり(年間約3万4000円~17万3000円)、受給者が若いほど金額は大きくなります。

受給者本人が昭和18年4月4日以降に生まれた場合、特別加算額は上限の年17万3000円です。(令和6年度)

加給年金のポイント

加給年金のしくみは複雑で、同時に繰り下げも検討する場合は特に判断に迷うところです。

受取りには申請が必要

加給年金は自動では支給されません

対象になる場合は戸籍謄本や所得証明などを年金事務所に提出する必要がありますので、申請をお忘れなく!

支給停止になるケース

配偶者(または子ども)が年齢制限に該当しなくなった時や、離婚・別居・死別等で受給者本人に「生計を維持されている」状態ではなくなった場合は加算が終了します。

この場合も受給停止の手続きが必要です。

届け出をせずに加算され続けると、もらいすぎた部分はさかのぼって返金しなければなりません。

働きながら年金をもらう場合

会社員として働きながら厚生年金を受け取る場合、年金と給与(賞与も含む)の合計額が月50万円を超えると、年金額が調整(減額)されます。

厚生年金の月額+会社からの月給等の合計が
50万円以内50万円を超える
老齢厚生年金は全額受給できる50万円を超えた額の2分の1の厚生年金が減額される

会社からの給与等が多く、厚生年金が全額停止になる場合は、大元となる厚生年金部分が支給されないことになりますので、加給年金ももらえません

ただし、厚生年金が少しでも支給される場合、加給年金は全額支給されます。

この場合も受取りには申請が必要ですので、忘れずに。

老齢年金を繰り下げると?

厚生年金を繰り下げすると、後ろ倒しにした分、増額した年金を受け取ることができます。

ただし、繰り下げの待機期間中は加給年金を受け取ることができません

また、本来の年金と違い、加給年金は繰り下げた分だけ増額されるのではなく、もらわなかった期間分は消えてしまいます

繰り下げが良いか、加給年金をもらうのが良いかは、夫婦の年齢差や、どれくらい長生きを想定するかによって違ってきます。

  1. 年齢差が大きい場合、加給年金をもらえる期間が長いため、基礎年金のみ繰り下げて「厚生年金+加給年金」を受け取ることを検討
  2. 年齢差が小さい場合、加給年金をもらえる期間が短いため、加給年金にこだわらず「基礎・厚生年金とも繰り下げ(加給年金なし)」もあり
  3. 年齢差に関係なく、100歳くらいまで長生きを想定する場合は「基礎・厚生年金とも繰り下げ(加給年金なし)」が有利

また、年金を繰り下げている待機中に、やっぱり年金が必要となった場合、繰り下げていた期間の年金を「増額なし」で一括受給し、その後の年金を増額なしで受けとることも可能です。

この場合、待機期間中の加給年金も消えずに一括受取りができます。

まとめ

「男性は外で働き、女性は専業主婦」とか、「夫が年上、妻は年下」といった昭和色が濃い家族をモデルにした加給年金。

時代は変わり、働く女性が増えたことで、この優遇策も今後は見直しの焦点になりそうです。

老後の年金は、受け取る時期を後ろ倒しにすることで割増しになりますが、一方で、収入が増えると社会保険や税金だけでなく、医療・介護費の大きな負担増につながる可能性もあります。

具体的にあなたの家族構成や年金見込み額でシミュレーションすると、老後の生活設計がぐんとイメージしやすくなりますよ。

将来、制度がどう変わるかを見守りつつ、現行制度のもとでより良い選択をするための準備をしておきましょう。