公的制度・税金

親を扶養に入れたい方へ 税金と健康保険の違いに気をつけて

自分の収入だけでは生活できない人と一緒に暮らしたり、生活の援助をすることを「扶養」といいます。

国の制度上は、税金面での扶養と、健康保険における扶養、2つの考え方があります。(要件を満たせば、それぞれで扶養に入れることも可能)

扶養対象者は配偶者や子どもが一般的ですが、親を扶養することもできます。

ただし、子どもと違って、高齢の親御さんを扶養する場合は、介護や医療費との兼ね合いでいくつか気をつけたい点があります。

税金面での扶養

私たちは日ごろ、収入を得て、一定以上の儲けが出ると、その儲け(所得)に応じて所得税・住民税を払います。

これは年齢に関わらず、国民みんなが負っている義務ですね。

額面の収入から、経費(会社員の場合はみなし額)と、控除(個別の割引のようなもの)を差し引いて、残った分が儲け(所得)になります。

納税する人に、養うべき親や子どもといった「扶養親族」がいる場合、納税者の収入から、扶養人数分の扶養控除(38万円~63万円)を差し引くことができます。

扶養親族控除額
16歳以上19歳未満38万円
19歳以上23歳未満63万円
23歳以上70歳未満38万円
70歳以上(別居)48万円
70歳以上(同居)58万円

これによって、税金計算の元になる所得が小さくなり、納税者が支払う税金が軽減されることになるんですね。

扶養親族には、子、親、兄弟姉妹のほか、甥姪、おじおば、配偶者の父母なども含まれますが、扶養する側と扶養される側が同一生計であることが前提になります。

同一生計とは「お財布が同じ」であること。1つの家計で複数の人が共に生活している状況をいいます。別居でも仕送りをしている場合などは、同一生計に該当します。

※ 配偶者は別枠で控除されますので、一般の扶養控除には含まれません。

税制上の扶養の要件

親が扶養親族になるためには、以下の要件をすべて満たしている必要があります。

  • 年間の親の合計所得金額が48万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
  • 納税者と生計を一にしていること。
  • 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと。

収入には、給与以外のもの(家賃収入、株の配当等)も含まれます。

遺族年金や障害年金は非課税所得のため、税制上の収入には含まれません

同一生計とは、子どもが生活費や療養費を支援している状態のことで、必ずしも同居でなくても認められますが、お小遣い程度では認められません。

親が病気等で入院していて、一時的に別居状態の場合は、1年以上といった長期の入院であっても「同居」に該当します。

ただし、老人ホーム等へ入所している場合は、その施設が居所になるので、同居とはいえません。

扶養控除で軽減される税額

税金がいくら安くなるかは、納税する子どもの収入、扶養される親の年齢、その親と同居か別居かによって異なります。

扶養対象者一人あたりの控除額(収入から差し引かれる金額)は以下のとおり。

親の年齢所得税の控除住民税の控除
70才未満38万円33万円
70才以上で別居48万円38万円
70才以上で同居58万円45万円

例えば、以下のようなケースでは、親1人につき年間8万円ほど、子ども側で支払う税金が安くなります。

  • 納税者である「子」が、年収500万円(所得税率10%・住民税率10%)
  • 扶養される「親」が、70才以上で別居

所得税は4万8000円(控除額48万円の10%)、住民税は3万8000円(控除額38万円の10%)、合計で8万6000円が軽減される計算です。

軽減される税額は、納税する人の所得税率が何%かによって決まります。(住民税率は一律10%)

所得税率は全員一律ではなく、収入、家族構成、加入している保険などが反映されるため、同じ年収の人と必ずしも同じ税率とは限りません

自分の所得税率は、資産運用で具体的な非課税メリットを把握する時にも役に立ちますので、確認しておくと良いですね。

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健康保険における扶養

子どもが会社員・公務員の場合、親が被扶養者(養われる側)として、子どもの健康保険に加入することができます。

被扶養者になった親には、保険料の負担もありません

ゼロ円で、子どもの健康保険に加入できるということですね。

ただし、その「子」に生計を維持されていることが前提となります。

自営業世帯が加入する国民健康保険には「扶養」という考え方がないため、対象外となります。(国民健康保険は、世帯の人数や収入で保険料が決まります)

健康保険上の扶養の要件

親が子どもの健康保険の被扶養者になるには、以下の要件をすべて満たしている必要があります。

  • 60才未満の親は年収130万円未満、60才以上の親は年収180万円未満であること。
  • 同居の場合、親の収入が扶養者(子)の収入の半分未満であること。
  • 別居の場合、親の収入が扶養者(子)からの仕送り額よりも少ないこと。
  • 親が75才未満であること。

収入は、過去の年収実績ではなく、これから先の見込み額で判定します。

また、税制上の基準と異なり、収入には失業保険の給付、遺族年金や障害年金などの公的年金、傷病手当金等も含まれます

75才になると、みなさん後期高齢者医療保険という別の健康保険制度に加入します。
よって、現役世代の健康保険制度の扶養に入れるのは、親が74歳までになります。

扶養で軽減される保険料

子どもの健康保険の扶養に入ると、親がこれまで自分で加入していた保険制度(国民健康保険等)を脱退することになり、支払っていた健康保険料不要になります。

また、年に1回、特定健診を受けることができます。

自己負担額は各健診機関・内容によって異なりますが、子どもの健康保険から補助が出ますので、無料~数千円で受診することができます。

扶養に入れるメリット

税金面では、納税する子ども側に節税効果があります。

親を扶養すると、扶養控除という国の割引制度が適用されるので、税金計算の元になる所得が小さくなり、結果的に所得税・住民税が安くなるんですね。

健康保険では、これまで支払っていた親側の保険料負担がなくなるというメリットがあります。

区分メリットデメリット
税金扶養するの所得税・住民税が安くなる特になし
健康保険扶養されるの保険料が不要医療費が高額な場合、自己負担増の可能性

扶養に入れるデメリット

高額な医療費がかかった場合に利用できる「高額療養費制度」の自己負担額が上がってしまう可能性があります。

例えば、70歳の親世帯の年収が160万円、子世帯の年収が500万円、親が1ヶ月に病院で支払った医療費が10万円だったとします。

子の扶養に入っていない場合

親世帯の自己負担上限額は1ヶ月あたり5万7600円ですので、10万円との差額・約4万円が申請で戻ってきます。

子の扶養に入っている場合

扶養者であるどもの収入が基準になります。年収500万円の場合、自己負担上限額は1ヶ月あたり約9万円です。

この場合、申請で払い戻しされるのは、支払った医療費10万円との差額、数千円ほどに留まります。

1ヶ月の医療費は、複数回受診したり、同じ世帯の家族それぞれが窓口で支払った金額を合算して、世帯ごとにまとめることができますが、若い世代で日頃あまり病院にかからない場合は、親世代の医療費がポイントになりそうですね。

持病があったり、入院等で、毎月の医療費が高額になりがちな場合は、扶養に入らずに、高額療養費制度の自己負担額を低く抑えるという選択肢もあります。

保険でどちらが得という判断は難しいですが、親世帯が自分で支払う健康保険料と、医療費が多くかかった場合の自己負担額を目安に検討してみると良いですね。