急な入院や長引く治療。医療費は不意にやってきて、大きな出費になることもありますよね。
そんなときに助けになるのが「高額療養費制度」です。
見直しも検討されているこの制度ですが、あらためて内容を確認しながら、民間保険との付き合い方、そして「自分のお金で備える」という視点も整理してみました。
家計を守る「高額療養費制度」とは
家族が急に入院することになって。病状も心配だけど、医療費がけっこうかかりそうで、それも不安なんです。
それは大変でしたね。急な病気は、気持ちの整理もつかないし、お金のことも一気に心配になりますよね。でもね、「高額療養費制度」という制度があるんです。これは、医療費がある程度の金額を超えたときに、その超えた分があとから払い戻されるしくみで、家計の負担をぐっと軽くしてくれるものなんですよ。
大きな病気やけがで医療費が高額になると、家計にとってはかなりの痛手。そんな時に、家計の負担が膨らみすぎないようにサポートしてくれるのが「高額療養費制度」です。
この制度は、加入している公的医療保険(健康保険や国民健康保険など)を通じて、1ヶ月の自己負担額に上限が設けられ、それを超えた分が払い戻される仕組みになっています。
自己負担の限度額は、年齢と所得によって段階的に決まっていて、たとえば70歳未満の現役世代で年収が500万円の方であれば、1ヶ月あたりの上限は「8万円+α」程度になります。
がん治療や大きな手術など、医療費が一時的にぐっと上がる場面で、この制度が経済的なクッションの役割を果たしてくれます。
家族の医療費をまとめる|世帯合算
私も通院してるから、けっこう医療費かかるんです。家族分も合算できるんですか?
はい、一定の条件を満たせば合算できますよ。世帯合算というしくみです。
世帯合算は、同じ公的医療保険に加入している家族が対象です。
ざっくり「同じ保険証を持っている家族」と考えるとイメージしやすいですね。
1人あたりの自己負担が月21,000円以上ある場合、その金額を合算することができます。
そして、家族で合算した合計額が1ヶ月の自己負担限度額を超えていれば、その超えた分があとから払い戻されるしくみです。
たとえば、自分とパートナーがそれぞれ病院にかかっても、条件を満たしていれば「世帯全体の医療費」として扱われて、負担が軽くなることがあります。
ただし、たとえば共働き夫婦で、それぞれが別々の健康保険に加入している場合は合算できません。
同じ職場でも、それぞれが「本人」として健康保険に加入していれば、別々の被保険者として扱われます。
合算するには「保険証が同じで、どちらかが扶養に入っている関係かどうか」がポイントになります。
繰り返す医療費に|多数回該当
同じ人が繰り返し医療費を払っている場合にも、何か特典みたいなものがあるんですか?
はい、多数回該当というしくみがありますよ。繰り返し高額な医療費がかかっている場合に、自己負担の上限が軽くなる制度なんです。
多数回該当は、直近12ヶ月以内に高額療養費の対象となる医療費を3回支払っている人に適用されます。
4回目以降は、自己負担の上限額が通常よりも引き下げられるのが特徴です。
たとえば、年収500万円の方であれば、4回目以降の自己負担の上限は月あたり約4万4千円程度にまで下がります。(3回目までは1ヶ月あたり約8万円)
継続的な治療や、長期にわたる通院がある方にとっては助かるしくみですね。
申請方法と事前にできること
これは自分で申請しないといけないんですか?
はい、そうなんです。何もしないと戻ってこないので、忘れずに手続きしましょう。
高額療養費は、まず病院の窓口で通常どおり自己負担分(たとえば3割)を支払い、その後に申請して、限度額を超えた分が払い戻されるしくみです。
申請は加入している健康保険(協会けんぽ、健康保険組合、国民健康保険など)に行い、診療月の翌月以降に、申請書と医療費の領収書を提出するのが一般的です。
一方で、最初から窓口での支払額を抑える方法もあります。
限度額適用認定証を利用
事前に入院や手術がわかっているときは、加入している健康保険に申請して、「限度額適用認定証」をあらかじめ取得しておきます。
これを医療機関の窓口で提示すれば、その場での支払いが自己負担限度額までに抑えられます。
マイナンバーカードを利用
マイナンバーカードを健康保険証として登録していると、限度額の情報が事前に医療機関と共有されるため、同じように立て替えなしで受診することができます。
また、役所などでの書類申請も不要です。
ただし、マイナンバーカードの保険証利用登録が必要ですので、余裕のある時に済ませておくと安心ですね。
制度の今後は?変化に備える準備も
なかなか助かる制度ですね。この先もずっと利用できるんでしょうか?
そうですね。将来的には条件が変わる可能性もあります。
長期の入院や高額な医療費がかかっても、一定の自己負担で済むのは本当に心強いことです。
とはいえ、この制度が今後もずっと「今のまま」続くとは、正直考えにくいですよね。
高額療養費の支給額はこの10年ほどでもじわじわ増えています。
たとえば、2015年度には約2.5兆円だったものが、2021年度には約2.85兆円に。申請の件数も年間6,200万件にのぼります。

少子高齢化の中で公的医療制度を維持するためには、高額療養費制度も見直される可能性が高いと言われています。
いずれ変わる前提で、制度に頼りきりではなく、自分でも備えておく意識が大切ですね。
保険に頼りすぎないお金の備えを
限度額が上がるかもしれないなら、民間保険で備えるしかないんでしょうか?
ん~、そうとは限りません。保険だけで備えようとするのは、ちょっともったいないかも。
高額療養費制度は頼れるしくみですが、世帯合算できない場合や、将来的に自己負担が増えるかもしれないという不安も、たしかにありますよね。
「病気になるとお金がかかる」というのは、現実としてそのとおりです。
でも、その解決策として真っ先に「保険に入らなきゃ」と考えるのは、ちょっと待った!です。
お金がかかることは仕方ないけども、そのお金をどこから出すか、が大事なんです。
保険には、見えにくい手数料も含まれていますし、確率も加味すると、医療保険は必ずしもコスパが良いものでもありません。
そもそも私たちは、公的保険料を払っていて、ある程度の保障を受けることができます。
高額療養費制度に加えて、傷病手当金、出産育児一時金、重い症状には障害年金など、公的支援を活用すれば、これからも医療費負担はある程度抑えることができるでしょう。
それでも制度でカバーしきれない部分はどうするか。
その差分は、なるべく「自分のお金」で補えるようにしておくのが良いと思います。
何にでも使える「自分のお金」は、余計なコストがかからず、いちばん自由度の高い備えだからです。
どうしても不安が大きいのであれば、民間保険は「必要な期間を区切って」、コンパクトに備えるのがおすすめです。
だらだら長く加入するのではなく、必要なときだけ、必要な分だけ。
何となく不安だからと、あれこれ民間保険に入っていると、「自分のお金」を育てる余裕がなくなってしまいます。
まずは、今ある制度を知る。
次に、自分の資産を把握して、できるだけそれを増やしていく。
どうしてもカバーしきれない「重大なリスク」だけは、保険で備える。
ここでいう重大なリスクには、「ちょっと入院しても給付金が出てうれしい」そんなケースは含めないことがポイントです。
限りあるお金をどう使うか。
その振り分け方をシンプルにしておくことが、将来への安心にもつながっていきます。
