公的制度・税金

不妊治療にかかるお金のこと 治療費を軽減する3つの方法

日本で不妊の検査・治療を受けたことのある夫婦は約6組に1組。

特別めずらしい治療ではなくなりつつありますが、仕事への影響やパートナーとの関係、精神的な負担は軽くはありません。

これまでの不妊治療は、公的な健康保険の適用にならないものが多く、お金の面でも大きな負担がかかる治療でした。

令和4年4月からは、体外受精などを含む基本治療がすべて保険適用となり、お金の面ではだいぶ治療が受けやすくなりました。

不妊治療と健康保険の範囲

不妊の原因は、女性だけにあるわけではありません。男性に原因があったり、検査をしても原因がわからないこともあります。

以前は、原因や治療内容によって、公的な保険でカバーされるものと、自由診療(保険適用外の治療)に分けられていました。

かつて、夫婦のどちらにも異常がなく不妊の原因がわからない場合や、治療を受けても妊娠しない場合は、健康保険ではカバーされない自由診療となり、かかる費用は10割(全額自己負担)でしたが、令和4年度からはほとんどの不妊治療が3割負担で受けられるようになりました。

一般不妊治療生殖補助医療
・タイミング法
・人工授精
・体外受精
・顕微授精
・男性不妊の手術

治療費を軽減する3つの方法

とはいえ、長期にわたって定期的な通院が必要だったり、保険が適用されない治療を受ける可能性もあるでしょう。

治療の内容や金額によって、国・自治体・健康保険等の制度を利用することができます。

  • 健康保険の範囲内で治療を受けた場合
  • 不妊治療助成金に該当する場合
  • 医療費が年間10万円以上かかった場合

該当するものがあれば、提出期限を確認して、忘れずに申請しましょう。

健康保険の範囲内で治療を受けた場合

健康保険の適用になる治療を受け、その費用が一定額を超えた場合、加入している健康保険に「高額療養費」を請求することができます。

1ヶ月に窓口で支払った治療費が「ひと月の上限額」を超えた場合、その超えた分が申請によって戻ってくるものです。

ひと月の上限額は、世帯の収入によって異なります。

区分年収の目安自己負担の上限
約1160万円~約 26万円
約770~1160万円約 17万円
約370~770万円約 9万円
~約370万円57,600円
住民税非課税世帯35,400円

自己負担額の計算方法

例えば、年収500万円の人で、1ヶ月の総医療費が100万円かかった場合でも、高額療養費制度により、自己負担額は約9万円に抑えられます。

入院などで医療費が高額になることが事前にわかっている場合には、あらかじめ「限度額適用認定証」を取得しておきましょう。

限度額適用認定証があると、窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめることができます。(この例の場合、「ひとまず30万円」を支払うことなく、はじめから9万円のみの支払いになります)

長引く治療にも対応

高額療養費の払い戻しを受けた月数が、1年間(直近12ヶ月)で3月以上あった場合、4月目から自己負担額がさらに引き下げられます。(多数該当高額療養費といいます)

特定不妊治療助成金

助成金から保険適用への移行に伴う経過措置として、以下に該当する治療を受けた場合は、従来の助成金の対象となります。

助成の対象になる治療

  • 体外受精
  • 顕微授精
  • 一部の男性不妊治療

対象となる条件

  • 治療の初日時点で、妻の年齢が43歳未満の夫婦(事実婚を含む)
  • この制度の対象となる指定医療機関であること
  • 令和3年3月以前に開始した以下の治療
区分内容上限額
A新鮮肺移植を実施30万円
B凍結肺移植を実施30万円
C以前に凍結した胚を解凍して、肺移植を実施10万円
D体調不良等により、治療のめどが立たず終了30万円
E受精できず(胚の分割停止、異常受精等により中止)30万円
F採卵したが状態の良い卵が得られないため中止10万円

男性不妊治療を行った場合は、上記に追加して、最高30万円まで助成されます。(Cは対象外)

独自に金額が拡充されている自治体もありますので、住んでいる市町村の窓口やHPで確認してください。

年間10万円以上の医療費がかかった場合

1年間で一定額以上の医療費を支払った場合は、税金が還付される医療費控除を利用しましょう。

確定申告をすると、その年の所得税・翌年の住民税が軽減されます。

医療費控除の対象条件

1月~12月の1年間で、家族全員分の医療費が、以下のどちらかに該当する人が対象です。

  • 支払った医療費の合計が10万円以上
  • 所得200万円未満の人は、支払った医療費の合計が「総所得の5%」を超える額

医療費控除の対象となる金額は、「実際に支払った医療費の合計額-①-②」です。

①:高額療養費、民間の保険金、助成金等で支給された金額

②:10万円(所得が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額)

助成金や民間の医療保険から給付金を受け取った場合は、その分を差し引くところ、注意しましょう。

医療費控除で還付される額

実際に還付される金額は、申請する人の収入によって異なります。(収入によって所得税の税率が異なるため)

医療費控除額がそのまま戻ってくるのではなく、医療費控除額に申請する人の所得税率をかけた金額が還付されます。

例えば、課税所得額が400万円(所得税率20%)で医療費控除額が50万円と計算された場合、50万円×20%で10万円が還付されることになります。

助成金等は控除対象にならないため、助成金や民間医療保険等、給付されるお金がたくさんある場合は、医療費控除の還付額はさほど大きくはなりません。

医療費控除のポイント

  • 健康保険が適用されなくても、治療を目的とするものであれば医療費控除の対象になります。
  • 不妊治療だけでなく、家族全員の医療費を1年間分、合算することができます。
  • 前述の高額療養費や助成金、民間の医療保険から給付金等を受け取っている場合、その金額は「支払った医療費」から差し引いて計算します。
  • 医療費控除を受ける場合は、医療費を支払った翌年の2月16日~3月15日の間に確定申告を行います。

対象になる具体的な費用

  • 不妊治療や検査のために病院・薬局に支払った費用
  • 通院する時の交通費(主に公共交通機関で、自家用車のガソリン代や駐車料金は除く)
  • 入院時の部屋代や食事代(洗面用具やパジャマ等の身の回り品の購入、個人的な都合だけで個室に入院した場合の差額ベッド代は除く)
  • 治療を目的とした鍼灸、マッサージ等の施術料金(疲れを癒したり体調を整える等、治療に直接関係のないものは除く)

通院しやすい病院選びを

不妊治療は、体と気持ちはもちろんのこと、毎日の生活にも大きな 影響を及ぼします。

治療は数ヶ月にわたることが多いので、不安や希望をしっかり受け止めてくれる先生に診てもらいましょう。

また、治療を始めると、頻繁に病院に通って治療・投薬を受けたり、夕方以降は仕事帰りの人でとても混み合い、時間がかかったりもしますので、通院しやすい病院を選ぶこともポイントです。

悔いのない選択ができるように、心の準備ができたら早めに受診されると良いですね。